ゴルフを救う言葉

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ティーショットを盛大に打ち上げて失敗した日本通の友人バリーをからかって「テンプラは美味いよね」と言うと、「お前はシャブシャブじゃないか」と来た。池に入れてはワンペナを繰り返していた私だが、上手いことを言うと感心するばかりだった。ままならないこのゲームでは、表現することがどれだけ救いになることか。

とくにグリーンに乗ってからの言葉の応酬は日米共通で愉快だ。「カップに蹴られた」と悔しがろうとした瞬間、 “Robbed !”と声が飛んで来た。和訳すれば「奪われた」という意味だから物騒だが、それだけあってはならないことだという憤慨、同情が込められているようで、妙に納得したりする。少し強く打ち過ぎて入れ損なっても「縁を焦がしたね」と慰められればまんざらでもない。「球が暗い所を嫌がっている」と嘆くバリーに大仰なヤツだと思っていたら、減速もせずにホールの横を通り過ぎて行く私のパットに手を上げながら「タクシー!」と呼びかけられて噴き出してしまった。

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ゴルフとなると英語を使いたくなるのは、日本語だと少しべたつくからだろうか。とくに褒めるときには、お見事、素晴らしいと正面切って言うより「ナイス!」の方が軽快だ。本来、ナイスは繊細、精密といった意味をもつが、当たり障りがない万能褒め言葉である。バンカーや林の中からから上手く脱出したときには「ナイス・アウト」と言われたい。日本で飛び交う「ナイス・イン」も英語としてなんとか許される範囲だろう。大事なのは共感できるタイミングだ。

ただ、間違っても言ってはいけないのは「カップイン」。「カップにインする」という和英折衷文の省略で生まれたのだろうが、「グリーンをオーバーする」からの「グリーンオーバー」も同様、この種の英語風カタカナ語には洒落がない。同類の「ゴールイン」や「ベッドイン」に似て、めでたいことの連想もあるかもしれないが、ゴルフで一番大事な目的地に到達した瞬間を言おうというのに、英語のようで英語として通用しない捏造語を持ち出しては、言う方にも言われた方にも何の余韻も残らない。スポーティーな気分を出したいのは同感だが、言葉にこだわらずに格好をつけるだけではゴルフを蝕む気がする。

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それはさておき、パットは入らなくても不幸ではない。私は、縁を回るようにして惜しくもはずれたパットはリップアウトと言うことにしている。ホールの縁を指してlip(くちびる)とは、19世紀から使われていた用法で、同義にエッジ、リム(rim)もあるがリップの方がいい。何となく艶があるし、そう呼び換えたところからは「キスしただけで入らなかった」というような表現の奥行きが生まれるからだ。バリーのバーディーパットはパワーリップになってまた同じ距離が残った。「ミック・ジャガー!」と叫んだので「オー・モニカ!」と応じると、民主党員の彼は眉をひそめ「おい、それは古いぜ」と笑った。

*モニカ・ルインスキーはビル・クリントン元大統領のオーラルセックス・スキャンダルの相手。

(2011年7月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)

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ゴルフを救う言葉」への1件のフィードバック

  1. [ ゴルフを救う言葉 ]
    レッスン書の類には近づかない。舞台裏や与太話の些細な事に立ち止まったりニヤついたり。“Lip out”・・・なぁるほど、好きな道です。

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