かつて毎日新聞木曜日夕刊に『19番ホール』と題するコラムがあって、私は2007年7月から2014年9月まで毎月、書かせていただきました。7年におよぶ連載を担当してくださった毎日新聞運動部の方々に、改めてお礼を申し上げます。
2011年6月からは月刊ゴルフダイジェスト誌で『GOLFがあればどこまでも』というコラムを連載させていただきました。「とにかくゴルフが好きで上手くなりたいとう人たち」に語りかける場を与えていただいたことは、伝え手たらんとする私にはかけがえのないものとなりました。
2015年で一区切りがついたところで全原稿を机上に並べてみると、私の書きたいことの全体図のようなものがぼんやり見えてきました。それぞれはまだ拙く、さらなる探求や調査が必要な事象ばかりですが、ゴルフの言葉、ゴルファーのスタイルが示すもの、そして性別も年齢もハンディーキャップも、国も時代すらも超えて、私たち自身と社会を映すゴルフの在りようは、それを記述することだけでライフワークになると感じます。
一方で、何か単純な、当たり前のことを追究している気もしています。どうしてゴルフに惹きつけられるのか、私に大学の教職を辞してまでのめり込ませたゴルフの力の正体は何なのか・・・。
もろもろの事情を書くたびに、わかりたいものに近づけることを願っている自分を思うと、この作業自体がゴルフだなと一人納得してしまいます。タイトルは「べたぴん!」だよね、と一人納得しているのです・・・。
*
『19番ホール』寄稿のきっかけは、時おりコンペでご一緒させていただいた翻訳家の永井淳さんからの手紙でした。「健康上の理由でキャディーバッグを封印するから、後はよろしく」という依頼に私はおののき、「体調回復後に復帰されるまでの代打ということで」と返信を打って後任を仰せつかりました。永井さんは2007年6月、ご自身の最終稿を次のような書き出しで始めました。
「ついに42年親しんだゴルフそのものを断念せざるを得なくなった。『断腸の思い』と言う表現が誇張でない事を実感できたと言ったら嗤われるだろうが、ゴルフ好きならわかってくれるだろう」
体調を崩していた永井さんは酸素吸入器を携えながら、長年のゴルフ仲間と「最終ホール」をプレイしたそうです。
*
永井さんの思いが共感できるだろうかと自問しながら、私は学生時代に心躍らせて読んだ小説の一節を思い出していました。
「golfという言葉を話し始めると、その言葉で男や女に話し始めると、彼らがその生命の流れによって、golfという愛情深い言葉によって変えられることがわかってくる。
「われわれは内に言葉を持たなくてはならない。golfという言葉を内に持って、それを君たちの中に豊かに住みつかせなくてはならない。そうすれば世の中に出て行って男や女に話しかけるとき、君たちはgolfという言葉を話すことができる。それはかつて誰かがその言葉を話すのを聞いたからではなく、その言葉が君たちの内に生きているからなのだ。
「君たちがその言葉を話すとき、何かが起こり始める。われわれは言葉の力を見くびっている。君たちが外へ出て行ってgolfという言葉を話すとき、それは精神であり生命である。
「君たちを見ていると、悩めるもの、不安なもの、自信のないものが大勢いることがわかる。ではどんな療法があるか?それは医者や薬では治らない、答えは言葉だ。その言葉がgolfである。われわれは会う人すべてにgolfという言葉の真の意味を告げなくてはならない。そうすればわれわれが話しかける相手はその生きた言葉の力によって変えられる。………」
(『シューレス・ジョー』W.P.キンセラ 著、永井淳 訳、文藝春秋社。小松改変)

原文の「野球」を“golf”に変えたのは私ですが、すでに30年以上を経た今でもこの文章に強く惹かれます。作者のキンセラ氏も永井さんも、勝手な引用改変をお許しくださることと願っています。永井さんはスコットランドやアイルランドのリンクスに魅せられて旅を続け、彼の地の飾り気のないゴルフの良さを、時おり私にも話してくれました。いつかリンクス巡りをご一緒できないものかと他愛なく夢見ておりましたが、永井さんは2009年に生涯を終えられました。
*

私はゴルフに魅せられて教職を辞し、世界のゴルファーの集まる米国フロリダ州オーランドに住みながらゴルフ専門テレビ局に勤め、米PGAツアーや欧州ツアーのトーナメントを中心とした日本向け放送に従事していました。ゴルフの楽しさをまじめに、深く、でも愉快に伝えていければと願っています。試合中継を見たりエッセイを読んでくださる人たちに共感してもらえる言葉をもち得ているのかと、自問しながら・・・。
小松直行(こまつ なおゆき):米NBCユニバーサル(ゴルフチャンネル, 2002-21)勤務を経て現在フリーランス・アナウンサー。フロリダ在住。1960年(昭和35年)、神奈川県横浜市長者町生まれ。筑波大学体育専門学群卒、東京大学大学院教育学研究科体育学専攻修士課程修了、博士課程中退(教育学修士)。㈱資生堂研究員、日本女子体育大学講師の傍ら、テレビ朝日「ニュースステーション」リポーターをきっかけに、CNN「東京プライム」アンカーを10年間務めるなどマスコミ活動に携わる。2002年に渡米し現職。著書に『ウエルネスウォーキング(求龍堂)』等、訳書に『ボディーズ(マガジンハウス)』。