祝2023:ゴルフ中継の新たな時代(5:まとめ)

 試合中継というタペストリー:ゴルフトーナメント中継は、競技の重要な局面を勘所として押さえながら、それを縦糸にして流れを維持しつつ、随所にプレイヤーの個性を示すストーリーや時事的ニュースなどのカラフルな横糸を織り込み、4日間の競技完結時に視聴者に充実感と満足感を得てもらえることを目指す。結果としての勝敗だけでなく、4日間のプロセスを経た全体としてタペストリーのようなプロダクトを想定したい。

 究極のローカライズを目指す:アメリカ、イギリス向けに制作されるものをローカライズする場合、可能な限り日本の視聴者のニーズを満たすことが日本語コメンタリーの目的。ライブでは、すでに完成されて送られてくる英語圏向けのプロダクトの制作意図を瞬時に見抜いて、映像を最大限に活かすコメントをつけるのが理想である。ローカライズをどこまで極めることができるのかを考える。画面のディテールまで。そして背景となる文化までを伝えたい。

 言語の壁を取り除く:画面上のグラフィックスやインタビューなど、日本語でない情報は即座に日本語にできる。何が画面に出てくるかは事前に把握しがたいケースが多い。あらかじめ幅広く準備しておく必要があるのはいうまでもないが、それらは随時提示できる情報でもある。受け身、受け売りにとどまらず、オリジナルコンテンツとしてプロデュースするくらいの構えで準備しておくことが求められる。

 コメンテーターのスキル:ローカライズ放送の面白さは、伝えるべきことをいかに伝えるかというコメンテーターのコミュニケーションスキルにかかっている。コメンテーターの選ぶ言葉、表現スタイル自体が楽しさにつながるからである。切れ味のいい一言がその日の全体のコメンタリーのトーンを作ることがあるのを何度も経験した。

 インターネット放送:ネット配信は新たなゴルフファンを増やすチャンス。若年層からの新たな視聴者獲得を含め、幅広い年齢層への対応が求められ、従来のテレビ放送におけるあり方にとどまらない新しいスタイルも必要になる。従来はあり得なかった「モバイル環境」、「ながら視聴」を想定するなら、これまでの放送の何を強化し、新たに取り入れていくべきものは何なのか。今までのところ、私が試みてきたのは主に、1)ゴルフ用語、ルールの説明を増やす。2)受け入れられやすい表現、比喩を使う。3)若いプレイヤーの紹介を増やす(なぜゴルフに入れ込むようになったか、どうやってプロになったのか、等)であるが、果たしてどう受け取られているだろうか・・・。

ゴルフのチカラ:人々を衝き動かすものが面白い

 アスリートは我々の生き方のモデルになりうる重要な存在、各地を転戦するツアー競技は社会を映す鏡。だとすれば中継放送の責任は重大。面白ければそれだけでいいとは言えない。コメンテーターはコメントの暗示する価値観を意識しつつ、自分の言葉の社会性を常に自覚していなければならない。

 ツアープロも一般のゴルフ愛好家も、ゴルフの魅力に突き動かされて生きている。我々のゴルフをしたいという思い、プレイヤーの勝ちたいという欲求、その喜びを分かち合いたいという願いが、トーナメント中継には満ちている。

 スポーツの素晴らしさは、誰かが喜ぶのを自分の幸せにできること。だから私はその伝え手として、来年からもマイクの前にいたいのです。Happy Golfing!

(by 小松直行、2022年12月1日、フロリダ・オーランドにて。)

皆様、どうぞ健やかで幸せな2023年をお迎えください。ごきげんよう。

祝2023:ゴルフ中継の新たな時代(5:まとめ)」への2件のフィードバック

  1. 私はゴルフチャンネルの最初の頃からcsで視聴していました。そこで欧州ゴルフツアーを初めて視聴し、すごい選手がアメリカのPGAツアー以外にもいるんだということを初めて知りました。当時は世界的には無名のガルシアやリーウェストウッドやマキロイなどの選手が世に出ていくのを見てほくそ笑んでおりました。当時のゴルフチャンネルの小林至から始まって小松さんや倉本さんも加わってゴルファーの私生活など色んな話を聞くのがだいすきでした。ゴルフチャンネルが日本で放送しなくなりゴルフネットワーク一局となりました。ゴルフネットワークではアメリカPGAツアーが主体で欧州ツアーの放送がなくがっかりしております。日本からは川村、久常がレギュラー参戦していて比嘉も好成績をあけています。時々YouTubeで放送がありますが日本で欧州ゴルフツアーを視聴できないのが残念でありません。小松さんの濃いコメントをまた聞きたいとおもっています。是非なんらかの形でゴルフ放送に復帰する事を願っております。

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    1. 片桐さん、拙稿をお読みいただいた上に嬉しいコメントまでいただいて心から感謝いたします。長くご視聴いただいた方々のお便りはゴルフ専門アナとしての冥利に尽きると感じます。世界のツアーがアメリカを頂点に再編成されていきますが、面白いのはアメリカだけではないと強く感じますね。思いあまってポッドキャストなぞ始めておりますが、私にとっては中継がライフワークですので、このまま終わるわけにはまいりません。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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