祝2023:ゴルフ中継の新たな時代に向けて(4)

4. トーナメント中継観戦を楽しい体験にしてもらえるようにするには何ができるのか

 コメンタリーが面白さばかりを目指せば、ある視聴者層には受けても他の層には嫌われるというジレンマを抱えることになりますが、開き直らず、その相反性の度合いをできるだけ減らす方法を模索しなければなりません。そのために私が心掛けたのは以下の点です。

①明晰であること:伝えたい内容は、伝わらなければならない。コメントは簡潔である方がいい。即座に伝わる言い方をするよう努力する。

②常套的表現を避ける:見て分かること、当たり前のことを言わない。常套句は、局面を限定して故意に使う場合にのみ効果的になる。

③ゴルフ用語の正しい使用、紹介。慣用的、俗語的表現の積極的使用、あるいは紹介:例えば、パーオン、べたピン、寄せワン、入れパー、バンにゅう、・・といったゴルファーなら常に耳にする言葉は簡潔でわかりやすい。場面によっては積極的に使うことで親しみやすさにつながる。

④情報の出典の明確化:ニュース性の高い情報はその情報源を明確に提示する必要がある。

 他にもさまざまな工夫ができそうです。私が何を目指すかを考えるとき、いつも思い浮かべるのは故井上ひさしさんが座右の銘にしていらしたという次の言葉です。プロゴルフとそれを伝える放送の面白さの本質をついているように思えてなりません。

「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことをまじめに」・・・井上ひさしさんの言葉

 これには続きがあったことを娘の井上麻矢さんの本で知り、膝を叩きました。

「まじめなことをだらしなく、だらしないことをまっすぐに、まっすぐなことを控えめに、控えめなことをワクワクと、ワクワクすることをさりげなく、さりげないことをはっきりと」ー『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉 (集英社文庫, 2021)』                                                     

 矛盾しているようですが、長時間中継ではゴルフとゴルファーを一本調子で描写しているだけでは飽きられてしまいますし、もとよりゴルフにはバカバカしいこともたくさんありますからね・・・。

伝えるべきことは何か?—「ゴルフとはゴルファーである」

 競技レベルには格差があっても、スポーツの面白さは勝敗を決するまでのプロセスにあります。放送の骨格は競技を伝えること。同時に、ゴルフには勝敗だけでない多くの楽しみがあり、放送の面白さも多くの要素で生み出されるはずです。例えば;

a) 競技としての面白さ(技術、戦術、自然条件や運といったゴルフならではの要素)

b) 視聴者もゴルファーとして体験しているゴルフの楽しさへの共感と再確認

c) 臨場感。同時に多数プレイヤーのプレイを観戦できることによる「同時性」の楽しさ

d) プレイヤーの来歴やキャラクター

e) 記録、歴史など関連情報

・・・などがあげられるでしょう。私はとくにプレイヤーに関わる情報が重要だと考えています。

 ゴルフとは何かと問われれば、思いはゴルフ史をたどって「ホールに球を落とし込む遊びである」という答えに至るかもしれませんが、プレイする人間なしにはゴルフは存在し無いのだから「ゴルフとはゴルファーである」と考えたほうがゴルフを理解しやすいという気がします。中継はゴルファーが体験する喜びや苦しみのドラマを意味していて、それを伝えるアシストをするのがコメンテーターの役割だと思うのであります。

4日間の放送の戦略

 通常のトーナメントは4日間。大抵は二日目が終わった時にフィールドの人数を減らす「ハーフウエイカット」が行われて週末の決戦に入ります。コメンタリーの戦略として初日二日目はプレイヤーの紹介を中心にプロゴルフの魅力をアピールし、視聴者にプレイヤーとツアーに親近感を持ってもらえるよう努力します。私は恣意的に少しくだけた語調も取り入れるようにしました。効果があったかどうかには自信がありません。メールやツイートの紹介はアーリーラウンドを中心にして、週末には競技の行方を追っていくこと軸に、コンベンショナルなスタイルを意識しながら進めるようにしています。

初日出場プレイヤー紹介ウエアの描写、個性認識と強調、戦績、バイオグラフィー紹介注目選手
大会、開催地、コース紹介位置づけ、歴史、特徴、等の概略。開催国ゴルフ事情、選手育成策など今週のニュース
芝の種類、コースの特徴紹介その週のニュースをて紹介ツイート、メール
二日初日に準ずる初日のコース統計情報、上位者のインタビュー内容紹介今日は何の日?
ハーフウエイカット情報今季の記録など今日のキーワード
三日上位プレイヤー紹介戦績、バイオグラフィーの詳しい紹介ショット・オブ・ザ・デー
開催国ゴルフ事情、大会、コース紹介位置づけ、歴史、特徴、各ホールについて、再度、詳しく紹介プレイヤーオブザデー
競技展開勝敗に関わる要素、競技展開の予想材料を提示中継標語・キャッチコピー
最終日競技展開プレイヤー情報を随時紹介。勝敗に関わる可能性のある局面で、その指摘と強調・・・・

楽しい中継のために

数ある付箋の中、不滅の一枚

 視聴者にとって楽しいTV観戦にするために必要なことは何かを常に考えています。フルタイムの仕事なのですから当たり前かもしれませんが、自分ながら「ゴルフ・オタク」だなあと思います。ニュース番組を見ていてもゴルフとの関わりを考えていたり、面白い言葉や言い回しがあれば中継に使えないかと思ったり・・・。それはおそらく私にとって元来の性癖で、ファニーなこと、おかしなことを言えば視聴者は喜んでくれるだろうと思い込んでいるのですね。時と場合をわきまえなければ逆効果になるのはもちろんですが、そのあたりは自分のセンスを信じるしかありません。スヌーピーの作者で、ゴルフ好きで知られたチャールズ・シュルツさんが「勝利はファニーではない。敗北にはファニーなことが慰めになる」と書いていたのが心に強く響きました。競技の勝者は一人。あとは勝てなかったプレイヤーたち。アナウンサーには、当たり障りのないことを口にすることも時として必要ですが、笑えることは、探し出してでも笑ってしまうのがいいと思います。以下に、コメンテーターとして私が心掛けていることを列挙して本稿を閉じます。

<ゴルフ実況アナ・小松の作戦>

面白がる

面白くないとき、笑える要素を見つけよう

画面の笑顔を増幅しよう、そのわけを伝染させよう

面白いことは大げさに面白がってみよう

悪天候の日を明るくしよう

言葉を話題にしよう

ゴルフ用語:誤用の慣用を正せ

表現で楽しませよう:「おなかのすいてるバンカーに食われました」

ミスを慰めよう・笑ってやり過ごそう:「曲がり始めるまではナイスショットでしたね」

つねに比喩を考えよう:「今田竜二的クリネックス・ショット」

何かにつけて名前をつけよう:「出た!トニー・フィナウのトンカチ打ち!」

キャッチフレーズをつけよう:「おしゃれなサム・ライダー」、「起き抜けに5ヤードのベイビードローの打てる男、グレイソン・シグ」

視聴者を引っ張る

ニュースや時事的話題を紹介する時は可能な限り画面をキッカケにする

ゴルフの慣用句を紹介して掘り下げよう:「怪我人に注意」「打たなきゃ入らない」・・・

ゴルフの名言、格言を引き合いに出して楽しもう

そのプレイヤーの流儀を探し出して称えよう

キーワードを見つけて強調しよう

強さを探りだそう、勝利の潜在要因を見つけて名づけよう:子どもが生まれて「おむつファクター」が勝因

画面の花や木や鳥の名前を言おう

コースやウエアのその色は何色なのか:言えそうもないことを言う努力をしよう

ゴルフの勝負服:商品としてのプロの要素、ファッション、ダンディズムを語ろう

出身国、人種、ジェンダー等、ゴルフの社会性を意識しよう

試合はスコアの勝負、放送は「間」の勝負:打つときは原則的に黙ることが緩急の節目

ゴルフの7thイニング・ストレッチ:中継にも息抜きを入れよう

試合の華はホールインワン。思い切り盛り上げよう

勇気を出して言い切る

ハードボイルドでいこう:当たり障りなくまとめない

紋切り型常套句を使わない

見てわかることは言わない:言うなら比喩を使って言い切る

見てわかることを言わなくてはいけない時がある

誰もがそう感じているだろうことは言わない

誰もがそう感じているだろうことを言う必要のある時がある

自分の感情を視聴者に押しつけない

偽善的コメントを排せ

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