浮かれ騒ぎは英国ゴルフファンの得意でないはずですが、5月のロンドンにはどこか陽気なエネルギーに満ちているような明るさがありました。舞台はウエントワース西コース。長い冬に耐えていた木々の若葉とシャクナゲが色を競います。すでに名を成してアメリカに行っているプレイヤーたちが戻ってくるオールスター戦。台頭してきた若手たちもまじえてホームツアーで戦うBMWPGAチャンピオンシップは、欧州ツアーの旗艦イベントです。
加えて今年は、日本から初出場の谷原秀人選手が最後まで優勝争いに加わる展開。上ずりる声を抑えながら中継していると、その谷原さんやステンソン、モリナーリ弟やコールサーツら上位陣を含め19人を後ろからゴボウ抜きにしてトップに立ったのはアレクサンダー・ノーレン。首位と7打差から最終日を始めてバーディーを8つ重ね、迎えた18番パー5、2打目の5鉄を2mにつけてイーグルパットをねじ込み62。驚くべき加速力で鮮やかな逆転勝利を遂げました。
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谷原選手は3位タイに終わりましたが、私は彼の優勝を生中継したかった。欧州のレギュラーだった佐藤信人さんや手嶋多一さん、アジアツアーとの共催試合での清田太一郎さん、平塚哲二さんの惜敗をお伝えしましたが、まだ優勝のライブはないのです。谷原さんには是非とも出来る限り欧州ツアーの試合にも出場して欲しいと願うばかりです。
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ところで。
ゴルフではルールがすべての行動基準なのか。それともゴルフにとどまらない生き方の問題がゴルフにも当てはまるのか。アマチュアの週末ゴルファーなら、ハードボイルドを気取っていかようにも格好つけることができますが、プロがこだわっていることが垣間見えるとちょっと嬉しくなります。
BMWPGAチャンピオンシップの初日、アーニー・エルスは12番パー5で2打目をグリーンサイドのラフまで運び、そこからチップインのイーグルをきめました。現象としてはそういうことだったんですが、エルスはそのあとで自らに2罰打を科しました。
理由を問われたエルスは、地面に食い込んでいないかどうかを確認したい旨を同伴競技者に告げて拾い上げ、食い込んでいなかったのでリプレイスして打ったのだが、そのリプレイスがきちんと元の通りに戻せていなかったのではないかという思いが残った。あまりにいいライで、結果としてチップインにつながったが、その思いを抑えきれず競技委員に相談すると、見ていた者が誰もいないのですべてはプレイヤー自身の判断であるとの答え。結局、エルスは自分で二打罰(誤所からのプレイ)とし、ファーストラウンドの69は71になった、というわけでした。
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我々はこの説明から、きちんとリプレイスできていなかったのが事実なのだろうと推察して、罪悪感をかかえたまま過ごすより精神衛生上はいいだろうと、好ましい行動としての評価をできるわけですね。ごまかしたかどうかが問題になるほどのレベルではなくても、自分の行動でありながら結果的に自分でもはっきりしないことはよくあるだろうし、エルスの行為はそういう場合の見本かと思えば、納得できます。
はっきりしないんだからノーペナでいいじゃないかという考え方もあるでしょう。どっちをとるかという問題。ここは大げさに考えてみたい。これは、個人の流儀、生き方の違いになるのでしょう。そんなことを我々に考えさせたのは、同じ日にエルスの教え子で後輩のブランデン・グレイスが遭遇した、ルール裁定があったからです。
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グレイスは13番パー4で2打目をグリーンサイドバンカーに打ち込みました。行ってみると、まるでフランス料理のパテにはめ込まれたゆで卵のようにくっきりと綺麗な目玉。しかも斜面。出せないことはないとしても慎重に狙いを定めないと・・・ということで、グレイスはスタンスを取るために念入りに足を砂の中に固定させるべく時間をかけていました。が、まもなくして競技委員を呼んだのです。そして少し下がった場所にティーペグを刺して、その近くへ球をドロップしました。実況中継中の私と同僚は何が起きたのかといぶかるばかりでした。バンカー内の上り斜面のきわめて良好なライとなりました。
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あとで聞こえたところでは、ゴムのような何かが砂の中にあってそれが靴底に当たった。無罰で救済のドロップが許された、ということでした。SNS時代。この措置にはすぐにツイート続出。グレイスの同僚たるダニー・ウィレットや先輩のポール・マギンリーからも「どういう説明ができるのか」「ルールがおかしい」との声。ルール上は、バンカー内でライニングや下地を作る建設資材が足に触れる場合は救済を受けられることになっています。「だから批判されるには当たらない、自分はルールを知っていただけ。最終的には競技委員の決めることだ」とグレイス自身はラウンド後に言いました。
私の頭の中で、二人の自分が議論を始めます。
小松A:救済はルール。ルール通りにプレイするのはプレイヤーの義務じゃないか。
小松B:いや、ルールによる救済をうけるかどうかは当人の自由だよ。自分のミスショットの結果として、ひどいライを甘受してそのまま打つのが潔い
小松A:馬鹿げてる。なにより、ルールを拒否するのは傲慢でしかない。
小松B:いや、それが許されるのがゴルフでもあるんじゃないのか。ボビー・ジョーンズが讃えられるのは、スコアより大切なものがゴルフにはあるっていうことを示したからだぜ。
小松A:それは競技者として、プロとしてどうなのか。ゴルフは上がってきた数字だけが優劣を決めるから公平で平等で素晴らしいんじゃないか。
小松B:じゃあここで、エルスさんに聞いてみようよ。
・・・・・アーニー、ここだけの話ですがあなたならどうしたと思います?
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E・エルス:「目玉から無罰の救済なんてきまりが悪いなあ。オレならそのまま打つね(想像上のコメント)」
そして、そのまま打った目玉を、なんとホールアウト・・・。
エルスなら、そうして、そうなったかもしれません。プロの流儀と、苦境からきらめき出る魔法のようなショットを、私は見たいなあ。
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