怒りと成熟 —ネルソン・マンデラの教え

 

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世界のトップレベルにいるツアープロたちがクラブを放り投げ、不本意なスコアにいら立って球を池に投げ捨てる様を見せられてうんざりした。真剣に戦っている彼らが頭に来るのは理解できる。しかし、キャディーバッグを蹴り上げ、芝やコースに八つ当たりする様子は楽しめない。

喜怒哀楽の表出が悪いわけではない。バーディーを決めて喜ぶことはおおむね歓迎される。ただしガッツポーズが時として同伴競技者に対する敬意を欠き、傲慢な独りよがりに感じられることもあるように、感情表現に必要なのは節度と作法ということか。具体的方法を編み出すのはプロたちの仕事だ。

 

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個性的なスタイルがあっていいのだろう。1920年代にプロゴルフを良質の娯楽に仕立て、ツアープロたちの地位を築いたウォルター・ヘイゲンは、さほど難しくはなさそうなショットを前にして、わざと考え込んでみせたり、プロでもすくみ上がるような厳しいライから、いかにも楽しそうに鼻歌まじりのスーパーショットを放ってみせたりした。こうした演技こそプロゴルフの要素ではなかったか。ファンが見たいのは、卓越した競技力を前提にした彼らの自己表現なのだ。

怒りは、そのままでは弱さでしかないかもしれない。

「感情が増幅すればするほど、力はそがれる。怒りを鎮静すればするほど、力はみなぎってくる」

南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領はそう言った。反アパルトヘイト運動で投獄され、27年間を刑務所で過ごした彼に民族融和を成し遂げさせたのは、精神の成熟と力だ。ただ、マンデラが重要だと考えるのは何か特別な修養ではない。

「本当の強さとは、自分自身の不安や恐怖に負けないことだ。それを周りの人々に示してみせることが、社会のモデルになる」

くじけそうな事態で必要なのは、何も恐れていないという演技だと言っているのだ。それは指導者の心得でなく、感情をコントロールできるのは自分自身でしかないという教えではなかったか。

 

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おとなと子どもを分けるのは忍耐だ。やせ我慢でもいいとマンデラが言うなら少しは気が楽ではないか。そもそもままならないこのゲームで、怒りに縛られては続かない。悪戦苦闘している我々へぼゴルファーにプロゴルフが手本を見せてくれるとありがたい。

(2013年9月12日付毎日新聞夕刊掲載)

 

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*ネルソン・マンデラ元大統領は2013年12月5日(木)に95歳で亡くなった。私はその週、南アフリカでのネッドバンク・ゴルフチャレンジの中継を担当していた。12月6日の生中継は黙祷で始まり、私は次のようなコメントで生中継をはじめた。

 

大きな星を失った南アフリカ

悲しみの中で、私たちはその大きさにあらためて驚いています

でも、途方に暮れるわけには行きません

ネルソン・マンデラ元大統領は、許すこと、忘れること、

虹色の国を作ることを私たちの前に示して、世を去りました

勇気と可能性と希望・・・

ネルソン・マンデラの照らした道が見えます

ネルソン・マンデラの光は私たちの中にあるからです

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