コツをつかんだと思っても次の日には消えてしまう。物語のささやかな輝きに導かれて、真夏のアスファルトをひたすら走る自分が見える。夢に違いない。永遠に届かないものを追いかけていることに、どこかで感づいているのだから。
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ヴァージニア大学心理学部での実験。ゴルフ経験があり、米PGAツアーに関心を持つ40名の学生に2mのパットをしてもらった。使われたパターは長さ35インチのスコティー・キャメロン・ニューポート2。参加者を無作為に2グループに分け、一方には事前に、そのパターの持ち主がベン・カーティスであると告げながら、「彼を知っているかい?」「彼のパターを使えるなんてすごい実験だろう?」といった質問を投げかけた。ご存知、ベン・カーティスは2003年の全英オープン・チャンピオン。26歳のルーキーとしてメジャー初出場で逆転優勝という衝撃的デビューの後、ツアーで2勝をあげている実力者だ。30秒間ほどの会話に彼への賞讃が盛り込まれた。もう一方のグループには、何の話もしなかった。
両グループとも、あとは同じ手続きで進行した。室内に用意された人工芝のグリーンに実物と同じ直径108mmのホール。球の転がりの速さを示すスティンプメーターの数値は10フィート5インチで、これは競技の行われる実際のコースとほぼ同等である。
パットに先立ち、まず、ラップトップ・コンピュータの画面上にホールの大きさを実物大で描く、という課題が与えられた。実物のホールを2mほどの距離から見ることができる場所で、マイクロソフト社のペイント・ソフトを使ってマウスで円を描き、納得できるまで描き直し可能とされた。続くパッティングは3回の練習が許された後、10回の試みが記録された。
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パット成功回数は、ベン・カーティスのパターであると教えられたグループの方が平均5.3回で、他方のグループの3.85回より有意に多かった。入らなかったパットも分析され、カーティスのパターだと知っていたグループの散らばりが少なかった。描かれたホールは平均96mmと87.5mmで、カーティス使用パターと告げられたグループの方が有意に大きかった。パッティング成功率がホールサイズの認識に関係することは先行研究でも明らかになっている。ちなみに実験前3か月間のプレイ頻度と、パットの腕前の自己評価は、両グループに差がなかった。
どうやらメジャーチャンピオンのパターと知っただけでホールは大きく見え、パット成功率が高まったことになる。苦笑いしつつ振り返れば、ビキニ姿の美女が微笑む広告を見ただけでビールを選んでいたりする我が身に気づく。幻想と現実の差なんて無いようなものだ。クラブに宿る物語への期待が、眠っている能力を解き放つ呼び水のように作用して実際のパフォーマンスを高めるのなら、いまから借金をしてでもプロ使用モデルの新製品を買いそろえようと覚悟している。
(2012年2月号ゴルフダイジェスト誌掲載)