2013年10月、澄み渡る秋空のポルトガルマスターズが、クリスチャン・セバエのツアー生活の区切りとなった。今後はスペイン南東部のムルシアで、ゴルフを教えるという。43歳での引退。「がんばったが飛距離はいかんともし難い」と漏らした。「自分の半分は解放されたように感じている」とも言っていた。
ドライバーの飛距離はつねに最下位。欧ツアー平均が288ヤードでセバエは260。飛ばし屋には50ヤードも置いていかれながら20年近くを戦って2勝。いずれも、一筋縄では行かないこのゲームの妙を感じさせる勝ち方だった。初優勝の2004年スペインオープンでは、最終日に1番と16番ホールでイーグルをものにする逆転劇を演じた。さらに印象的だったのは2009年のヨーロピアンオープン。J・ニクラス設計、7,360ヤードのロンドンGCでウエストウッド、カイマー、マクロイ、ガルシアをはじめビッグネームを向こうに回して、いわば、飛ばないことを武器にして制した。
18番ホールがそのいい例だ。たいていのプレイヤーは、ティーショットで左の池を怖れて右へ打ち、フェアウエイを通り越してラフへ入れてしまうのだが、セバエは4ラウンドともフェアウエイ。同じように打ってもフェアウエイにしか届かないのである。もちろんそこからが勝者たりうる由縁で、ユーティリーティーの4番を駆使してバーディーも決めた。
「私は飛ばないが、どういう展開になっても自分のゴルフをする、自分の技量の内で踏ん張ることを目指したんです」
ニューカレドニア生まれ。タヒチでゴルフをし、米国ペブルビーチにあるスティーブンスン・スクールに通った。17歳で世界ジュニアに勝ち、スタンフォード大学に奨学金を得て89年から4年間を過ごしている。軍役でパリに駐在した時期も経てプロ転向という経歴は異色だ。
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2勝目の記者会見で、ことさら上機嫌だったのが思い出される。
「おや、サンダンスキッドが出てる。あいつは何しろ上手いんだ。見せてもらおうじゃないか・・・って感じで、今週は楽しんでもらえたんじゃないですか」
ロバート・レッドフォードに似ていたということからだろう。“サンダンスキッド”とは、1988年の英ユースアマチュア選手権で、金髪をなびかせながら冴えたショットを繰り出して勝った18歳のセバエに、スコットランドのメディアが献上したニックネーム。映画『明日に向かって撃て』でレッドフォードの演じた西部の無法者の別名をいただいたことは、その後も彼自身のお気に入りの逸話だったようだが、メディアの我々の方は勝利を祝いつつも少し苦笑い。飛ばないし、パッティングは抜群にうまいけれどもプレイがかなり遅いセバエに、早撃ちでならしたガンマンのあだ名は皮肉だったから。でも、自分を誇っていい日、自慢していい時は、誰にでもある
(2014年1月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)
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