今年3月末、北アフリカのモロッコ。亡きハッサン2世国王のゴルフへの思いが込められた伝統の一戦、ハッサントロフィーではドイツのマルセル・ジームが初日から飛びだしたまま勝ち抜いた。ジームと言えば調子が悪いと荒れるという悪名高きプレイヤーで、ある試合では完全にキレてしまい、植えられたばかりの若木を添え木ごとクラブでめった打ちにする様子が全世界に放映されたこともあった。それだけに、この試合でのジームが感情をコントロールしながらプレイする様子は感心できることに思えた。
プロが感情もあらわに怒るのを見せられるのは複雑だ。この週も、いつもは笑顔のヨハン・エドフォースが、怒りのあまりクラブを自分の足に叩き付け、立て続けに2本をへし折ってカット落ちして行った。それも娯楽と笑えば真剣な彼らを蔑んでいるようで嫌だし、反面教師だと納得するべきか。同情するが、怒りが自己否定なら得るものは何もない。自分に腹を立てることが、いかに情けないことであるか。この試合でそれを思い知らされたのは、じつは同じフィールドにいたもう一人のドイツ人プレイヤーだった。
デュッセルドルフ出身の29歳、プロ4年目、右打ちのマックス・グラワーツの右手には、生まれつき親指と小指しかない。父の勧めで子どもの頃からテニス、サッカー、卓球、母親の愛好する乗馬に親しみ、最初に始めたホッケーでは9歳の時に14歳のチームに入れられるほど抜きん出ていた。12歳でゴルフに移り、すぐに上達。HC+4でプロ転向。欧2部ツアーから昇格を目指している。194cm、90kg。ドライバーは290ヤード行く。
欧ツアーで頭角を現しつつあるマックス・キーファーが5歳年下で同郷の親友。ともにナショナルチームでプレイした。
「いつも一緒にやるから、彼に勝てることはわかっている。ニギリでは勝ち越してるしね。それは自信になる。彼にできてることは僕にもできると思うから」
アイドルはチャール・シュワルツェル。でも、スイングは真似できないという。
「自分のスイングのトップの方には満足できない。でも、修正したらスイングにならない。クラブを右に回して行きたくても、指がないからできないんだ」
「指がもう何本かあれば違うゲームが出来ていたかもしれないけど、正直言って、僕にはそうは思えない。そんなことはわからない」
「パッティングが良くなったら勝てるよ。5m以内がよくなれば、怖いものはない」
この週は招待出場。30位内に入りたいと言っていたが結果は83-72でカット。キーファーが85-72だったから、また少しせしめたことだろう。
「もう少し注目してもらえたら、僕は誰かのインスピレーションになれると思う」
自分を受け入れ、限界とか弱音とかを口にしないグラワーツの姿に何を見出せるか。プロゴルフの意味はそこにある。
(2013年7月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)
飽きっぽいのはABの血液型のせいだと思っていた自分が恥ずかしい。変えられないもののせいにするのは逃避だ。
資料:英デイリーメール紙2013年3月27日付記事。http://www.dailymail.co.uk/sport/golf/article-2299490/European-Tour-golf-Meet-Max-Glauert–man-taking-Trophee-Hassan-II-just-fingers.html#ixzz2PFiTrTwE