僕に出来るのはこれだ

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25歳のマニュエル・デ・ロ・サントはドミニカ共和国出身、パリ在住のアマチュアで、HCは3。ドライバーの飛距離は260ヤードほどだ。野球選手として将来を嘱望され、トロント・ブルージェイズ入りも決まりかけていた18歳の時、単車の事故で左脚のほとんどを失った。

両腕で杖を使い、義足はつけない。ショットを放つ時の、回転しながらのバランスは、銀盤上のフィギュア・スケーターのように見事だ。電動カートは使わず、バッグは自分で担ぐことが多い。

「スポーツですからね。私はアスリート、歩きます」

事故後、妻のエレナさんとともに、フランスへ移住してリハビリを続けていた彼は、ある晩、二人で映画を見た。タイトルは『バガー・ヴァンスの伝説』。1931年のアメリカを舞台に、マット・デイモン演じるかつてのアマチュア・ゴルファーの名手が、ウィル・スミス扮する謎に満ちたキャディーのサポートで試合に出て、戦争で受けた心の傷を克服するストーリーだ。

彼がバガー・ヴァンスに見いだしたのは、かつてメジャーリーグを夢見てプレイしていた野球とゴルフのスウィングの類似点だった。翌朝、彼は近隣の練習場に行き、4発打ったところで手応えを感じたという。

「僕に出来るのはこれだ、決めた!」

義足を外した方がうまく打てることに気づいた。野球選手時代に磨き上げた平衡感覚がものを言った。7番アイアンにベースボール・グリップで、朝9時から夕暮れまで球を打ち続けた。練習場経営者が感銘を受け、無料にしてくれた。日に2千球を打つこともあった。4年でHCは3になった。障害者の試合に出て勝利を重ね、後援企業もついた。

「新たな人生、新たな戦いを始める時が来たと感じました」

障害に挫けることを拒んだ彼の競技者スピリットは、健常者と同じ土俵で戦うことを目指している。仏国内のプロツアーにも出場し、今月初めには、セント・アンドルーズでの欧州ツアー公式戦に出た。一緒に回ったプロたちは、彼が自分のショットをコントロールしているさまに驚嘆していた。

「コースに出たら、障害なんて気になりません。問題は、この小さい球をホールに叩き込まなきゃならないってことだけです」

 

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(2009年10月29日付毎日新聞夕刊掲載)

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