年の瀬の南アフリカでのアルフレッドダンヒル選手権。舞台は東部ムプラマンガのクルーガー国立公園に接するレパード・クリークGC。クロコダイル川を挟んで、群れなす象やサイ、キリンに水牛にレイヨウたちが見渡せる。野生動物をライブで見られるゴルフ中継は例年、不思議に平和でのんびりとしたムードで進行する。それは表層にすぎず、生存競争のための本能的な恐怖が隠れているかもしれないが、2006年最終日はキロスのおかげで沸き立った。
「6鉄を手にしたなら一発必中。狙うことしか考えていません。荒っぽいのがお嫌いなご婦人たちには日傘の用意を願いますよ。」
デビュー戦で初優勝を遂げた23歳のルーキーからこんなセリフを聞かされたら、それだけでファンになってしまう。
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アルバロ・キロスはスペイン南部の港町カディス出身。細身長身、10cmはあろうかというナイフのようなもみあげは、まるでマカロニ・ウェスタンの早撃ちガンマンだ。しかも長距離砲ときている。
ツアープロならクラブの始動からインパクトまでは1秒前後、遅くても1.2秒で早ければ0.9秒台。ちなみにT・ウッズで1.06秒だが、おそらくキロスは0.8秒台。しかも、191cmの上背があってこの早さだ。
彼のスウィングを思い出そうにも、脳裏には“爆発”の記憶。銃口の煙を吹いてみせながらニヤリと笑う顔が浮かぶに至っては、両手を挙げるしかない。
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6鉄を手にしたなら一発必中。狙うことしか考えていません。荒っぽいのがお嫌いなご婦人たちには日傘の用意を願いますよ。
試合は、先立つ2年前にここでキャリア初優勝を遂げているチャール・シュワルツェルが初日からトップを走り、そのまま2勝めを遂げるかに思われた。しかし、何か勝手が違うという様子でいるうち、4打差を追ってスタートしていたキロスが前半で3バーディー。後半は13番、14番、15番を連続でとって、ついにシュワルツェルを抜き去った。541ヤードの最終ホール、特大のティーショットの後、6番アイアンの2打目は引っかけ気味ながらグリーン左端に乗り、20mのイーグルパットがホールの縁をなぞりながら向こう側に止まって、タップインのバーディー。後からあがってくるシュワルツェルは、最後にバーディーをとればプレーオフに持ち込めたところだったが、2打目を池に入れて勝負はついた。
S・コネリーの007シリーズがキロスのお気に入り。度胸満点で「ゴルフはツキ次第」と豪語する。ケガもありながら勝利を重ね、28歳になった去年は欧ツアー最終戦でキャリア6勝目を勝ちとった。その試合、ドナルド、マクロイ、ウエストウッド、カイマーを初め、いまをときめくビッグネームたちを向こうに回して、2打差の単独首位で三日目を終えた時のコメントが、また振るっていた。
「怖いかって?そんな大げさな。恐怖なんて言葉は深刻すぎる、使いなさるな。ゴルフは仕事。生活の4分の3はコースで過ごしてる。生きるか死ぬかってことじゃないんだぜ」
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(2012年4月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)