FORE !

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沈黙が原則のゴルフにあって、大声を出さなくてはいけない場面がある。

「フォー!」

飛球の方向に人がいて危険だと感じたら、間髪を入れずに叫ぶのが鉄則。それを聞いた者は、すぐに頭を腕でガードして声と反対方向にかがみ込むのが緊要。球に当たる事故はつねに起きており、回転している球は大きなエネルギーをもっているので、重篤なケガも多い。

気をつけろ、そっちへ行くぞ、の意味で使われるこのフォー!は古英語のforeに由来し、スコットランド語としてはビフォー(before)の短縮されたものらしい。もともと、前方の、前部の、という意味で、戦時に砲弾の飛来を告げるべく叫ばれたのも、この言葉であったという話だ。

 

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「よけろ」「危ない」というより、フォー!は叫び易い。英語圏ではある程度は一般化していて、ゴルフに限らず、差し迫る危険を伝えたいときに使われている印象がある。ゴルフの用語や表現が、比喩として一般社会で使われる例は多いが、フォー!のようなストレートな応用は、英米でのゴルフの位置を示す例として興味深いところだ。

ところで、忘れてはいけないのは、フォーと叫ばれるような位置にいないようにすべし、ということである。

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今年4月、米ニューヨーク州で、同伴競技者のシャンクした打球で失明する事故があった。打者がフォーと叫ばなかったことが、賠償をめぐる裁判で争点となったが、過失とは認められなかった。ゴルフでは、打損じによる打球事故のリスクは不可避であるとの判断が示されたのだった。

フォーを叫ばないことは重大なエチケット違反だが、打ち損じの球に当たる危険を事前に回避しなければならないのは、すべてのプレイヤーの義務であるということが確認された。我々はつねに、一緒に回るプレイヤーのミスショットが当たらない場所にいなくてはならない。それこそゴルフの参加資格たるエチケットなのだった。

ともあれ、プレイ中、いたずらに大声を出さないことが、いざとなってのフォー!を効果的にする。理想的には、どんなにひどいミスが連発されようともフォーの叫びは聞かれず、粛々と進行すべきゲームであることは間違いない。

(2009年8月6 日付毎日新聞夕刊掲載)

 

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