日本のゴルフには、追い風をフォロー、向かい風をアゲンストと呼ぶ慣用がある。元々のゴルフ用語ではなく、一般英語由来だ。
アゲンスト・ザ・ウインド(向かい風に対して)という表現が「風にアゲンスト」と半和訳されたのが始まりだろうか。いまでは「風はアゲンスト」になっているが、文脈ありき。アゲンストは芝目や日差し、傾斜についても使われるので、逆風に限定しなければ不自然ではない。
ウイズ・ザ・ウインド(追い風を受けて)が対になる表現だから、同じやり方で「風はウイズ」と言われるようになっていても良さそうなものだ。しかし、どうやら採用されたのは航海関係で順風を指して使われるフォローイング・ウィンドという用語で、これがフォローと略されて芝の上を飛び交っているということか。
この言葉になじみがあったのなら島国日本らしい。海事と聞いては、追ひ風(おいて)に帆かけてシュラシュシュシュ、と囃す香川の民謡が思い出されるが、勇壮で明るいイメージが湧いてくる「追い風」の一言を置いて、フォローと言い換えられたのはなぜだろうか。
そう書いてはたと気づいた。もしや話は逆で、日本的表現を英語で言おうとしたのが事の始まりだったのだろうか。順風、風に順いて打つ、を英訳しようとしてフォローという動詞が持ち出された、というのが真相かもしれない。
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ところで、フォローは、同じように英国で発展し、ゴルフより先に日本に入ったビリヤードの用語にもある。キューボールにトップスピンをかけること、的球に当たった後も前進するボールを指して使う。これが借用され、ゴルフでは飛距離の出る球を打つことを指して使われ始め、風に押される場合をも意味するようになったという類推はできる。
答えはまさに風の中だが、いまや風向きに英語を使う理由は乏しい。慣用語句は正統性と面白みが問われよう。かつて専門用語以外でも英語を使おうとしたのは一種の事大主義で、もはやそこにしがみつく段階ではない。古来、草木の花や葉のなびく様子から「風の色」を言う感性をもっているわれわれにとって、ゴルフでも英語の使い回しばかりでない日本語表現を探すべき時期だ。
(2008年11月20日付毎日新聞夕刊掲載)
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