白い小さなベイビー

渾身のショットを放ったプレイヤーがアップになり、押し殺した声が聞こえた。

「ビー・マイ・ベイビー(Be my baby)!」

手応えを残して飛んでいく、愛すべき小さな 白球に呼びかけたのだ。

ベイビーは赤ん坊、小さいもの、かわいらしいこと。魅力的な娘にカワイ子ちゃんと呼びかける一般的な語でもあるが、英語では男性が女性に使うときには、親しい間柄である必要があるので気をつけなければならない。面白いのは、注意深く扱う、甘やかす、赤子扱いするという意味の動詞としても使うところだ。そう、うかつに使ってはいけない。反感を生んでは元も子もない。いや、球はいつでもイノセントだが、ベイビーと呼ぶとき、一番大事なものでありながら、思うようにならないもの、厄介なものという潜在的意味がにじむ。

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ゴルフでは力を加減して優しく打つことを指してもベイビーを使う。また、右打ちのショットがわずかに右に切れるように落ちていく球はベイビーフェイド、左にゆるく曲げればベイビードロー。結果だけではリーク(お漏らし)とか引っかけと言われてしまう弾道も、コントロールされたナチュラルな傾向として肯定的に表現できる。

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赤ちゃんという日本語ではこんな風に言えないから、なんだかうらやましい。ぴったりくる和訳表現はないし、ほかにこういう遣い方のできる日本語もすぐに見当たらない。比喩の成否はゴルフの位置やゴルフへのまなざしの差を表すようにも思えるが、この場合は単に語呂の問題か。とりあえずカタカナにしてそのまま使ってはどうだろう。

カタカナと言えば、日本語の不思議な法則がここにも表れる。二重母音を含む本来の発音をそのまま記せばベイビ。語尾が伸びるのは不自然でないが、さらに日本ではベービー、ベビーと変化する。同様な例がゴルフにもある。ボウギ、ボーギーのはずが、ボギー。このあたりのあいまいさを考えれば、オーナーとオナーの混同に目くじらを立てる必要はないかもしれない。

(2010年9月16日付毎日新聞夕刊掲載)

 

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