ラブ・オブ・ザ・グリーンとはずいぶん優しい響きの言葉だ。豊かで、清々しく、安心感さえ湧いてくる。自然の恵みのことか、はたまたゴルフ場での一目惚れ?とイメージは膨らむ。しかし、LOVE(恋)も、そしてパッティング・グリーンさえもじつは関係ない。語感からは意味の掴みにくい規則用語の最たる例だろう。
このラブはRUB。由来は、芝の上で目標めがけて球を転がすボウルズというゲームだ。遡れば16世紀という由緒ある言葉で、球の転がりに影響する芝面の凹凸や障害物を指す。ボウルズでは、球がラブによって思わぬ転がりの変化を見せても、甘んじて受け入れなければならないことになっている。かつてスコットランドではゴルフと同じ場所でプレイされていたので、込められた思想ごとゴルフにも共有されたのだろう。
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ザ・グリーンの方は、コース全体を称して使われていたかつての用法の名残りだ。リンクスにあって支障なくプレイできるすべての場所を指していた。スルー・ザ・グリーンという規則用語も現存しているように、ティーイング・グラウンドとパッティング・グリーン、そしてハザード(当時はハリエニシダのブッシュ)を除くすべてのエリアのことだ。
パッティング・グリーンがザ・グリーンに入らないのに、そこに外から飛んで来て動いている球には適用される規則だからまたややこしいのだが、ともあれ、コース上での予期せぬ障害、妨害に遭遇して、球の行方が変化させられること、これがラブ・オブ・ザ・グリーンの意味で、1812年から規則書に入った。
「偶発的進行妨害」とでも訳せたかもしれないが、いまとなっては味気ない。ラブは比喩的に、障害物、困難という意味で一般的に使われるようにもなっており、ハムレット3幕1場の独白にも出てくる。外来語をカタカナにして取り込んでしまえる日本語の懐の広さのおかげで、歴史や英語を学べることを感謝するべきか。
「ああ、そこで邪魔が入る」と嘆きたまえ。自然のいたずらは当たり前のようにコースに存在する。不可抗力と言えば仰々しいが、試練と受け入れ、運とあきらめてむしろ楽しもう。打ち損ないが好結果に転じることも、あるからね。
(2008年9月25日付毎日新聞夕刊掲載)
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