プリファード・ライ

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二〇〇七年五月のイタリアオープンでは、当時、欧州ツアー参戦中の手嶋多一プロが初日に64の好スタートを切り、本領発揮かと期待された。二日目はあいにくの悪天候で、第1組が3ホール終えた時点で中断。手嶋プロを含めて35人がすでに出ていたが、50mmもの雨が降って9時間が失われた後、なんとスコアは帳消しで振り出しからやり直し。手嶋プロはクラブハウスで一日中待たされたあげく、三日目にずれ込んだセカンドラウンドを77にしてカット落ちを喫した。仕切り直しの理由はプリファード・ライを採用するため。公平を期してそれまでのプレイがご破算になったのだった。

単にプレイス、あるいはウィンタールールと呼ばれることもあるこのローカルルールは、規則書によれば大雨や酷暑、冬の寒さ等のためにコースの状態が思わしくない場合、フェアウエイやグリーンのカラー部分にある球を一度だけ拾い上げて拭き、あらためて置くことができるというもの。その作法は「マークし、拾い上げ、汚れを拭き取り、所定の範囲内に置く」と定められている。

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例えば6インチ(15cm)とかクラブ一本分の長さで、そのコース、または競技運営の委員会が採用を決める措置である。主目的は芝の状態やコースへのダメージ防止だが、競技者の立場からは「優位性、公平性の保障、補完」が大きい。フェアウエイに打たれた球は本来的に良好な状態にあるべきという考え方だ。そのため、ラフやハザードでの適用は認められないのである。また、観客の存在で成り立つプロゴルフでは「安全性確保」という目的もあると言える。ぬかるんだ地面に着弾して泥が着いた球をそのまま打つと、意図せざる方向に飛んでしまうことがあり、観客を危険にさらすおそれがあるためだ。

さて、ゴルファー諸氏はこのプリファード・ライをどう思われるだろうか。もちろんゴルフの試合は、基本的な技術の駆使と、その積み重ねで勝敗が決するものであり、それが競技レベル相応の面白さを生む。それはその通りだが、普段と違う悪条件をプロたちがどう乗り越えるかという点に見所はないのか。泥の着いた球を操る技、泥の着きにくい球の打ち方、というものがあるなら、時にはそれを見たいと思ってしまう。

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打てないなら救済は準備されている。1打払えば球を拭くことができるのがアンプレイアブルの措置だ。たとえフェアウエイ中央に打とうともディボット穴に入ることがあるのだし、雨はいつだって降る。ゴルフはもともとフェアとは言い難いゲームではないか。結果はどうあれ、どんな状況、どんなライからでも、もてる技術と気力を動員して放たれたショットこそ、ゴルフの本質的な魅力であるということを、プロの試合なら象徴的に見せてほしい。手嶋さんだって球に泥がつくのは嫌いだろうが、プロが自分のスコアを無効にされたなんて、さぞや情けない気分だったろうと思う。

(2012年8月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)

 

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