「あいつのドライバーは凄く飛ぶね」と聞いて、300ヤード彼方へドライバーが飛んでいくとか、「今日はパターが全部入った」と言われて、パターが手品のようにホールの中に消えていったと受けとる人はいない。「駅前の鮨屋はウマイ」で通じるのと同じだ。会話では、言葉を省略することで、伝えたいことが切れ味鋭く相手に届くようになる。
ましてやゴルファー同士となれば、説明不要の共通認識と了解事項がたくさんあって、はしょるほど情感を込めることができる。スシが旨いというだけの話ではなく、(あそこの主人はきっちりしたゴルフをするはずだ。なるほどあの包丁さばきだもの。きっと五下のハンデに違いない・・・)と思いを巡らせながら相槌を打つことになるのである。
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それにしても、日本語を話す我々は幸運だ。たとえば、英語ならグリーンズ・イン・レギュレーションと言わなくてはならないところをパーオンと言ってしまえる。「そのホールのパーから2を引いた打数でオン・ザ・グリーン」と言わずに済むのだからこの省略も痛快。同じパターンでツーオン、スリーオンと数えることもできて、ダファーには便利だ。
ダボ、トリ、ドラ、クインタ。ゴルフでよく起こる現象には、命名してスパッと言い切りたい。英語がらみで元の意味から外れても、省略なのだから仕方ない。むしろ仲間内の符丁に近くなって、一言でコミュニケーションが実現する。OBパー、寄せワン、寄らないワンでにんまり。「パーオンでボギー」と聞くだけで歯軋りさえ聞こえてくるではないか。伝えたいのは文字でなく、その向こうにあるうれしさやら口惜しさの方なのだ。
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略しても英語的に意味が通るなら、それに越したことはない。ハンディーキャップが一桁(シングル・ディジット)のプレイヤーのことを言うシングルはその例だ。この場合、「シングルプレイヤー」では略語にならないことを確認しておこう。人について言う時、英語としてのシングルは一般には独身者であることも指す言葉だし、ゴルフでは一人でコースを回っている者を意味するからだ。何がシングルなのかわからないところまで省略しておかないと、逆に伝えたい意味がぼやけるし、掛詞のように含みをもたせる楽しみも薄れる。
省略を楽しむなら中途半端はいけない。もう1つ例を挙げれば、ティーインググラウンド。規則書にも出てくる英語の正式なゴルフ用語だが、そのまま言うにはいかにも長い。少し略してティーグラウンドと言われることも多いが、「それではだめだ」などと野暮な人に言われることになる。省略なのだからおかしくないのだが、英語にこだわる向きには不完全と聞こえるのだろう。だから単にティーと言ってしまえばいい。ポケットの中のティーと混同する人はいない。最短まで略した言葉で、お互いの感応を探り当てるのがゴルフトークの勘所だ。
(2012年11月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)
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