ゴルフ用語が足りない

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ひとホールごとの勝ち負けを重ねていくマッチプレイは、ゴルフの事始めからいまに続くゲームの楽しみ方で、独特の言葉遣いも面白い。ライク、オッド、ビスク、バイなど、あまり使われなくなったものもあるが、一方で実況中継をする私としては用語不足を感じる。

ドーミーとは、負けるおそれのなくなった競技者のこと。ホール数の確定されているマッチで、アップ(勝ち取りホール)数が残りのホール数と同じになった時に言う。語感も不気味なこの用語が出ると試合はいわば臨界に達し、次のホールがハーフ(分け)にさえなれば勝敗が決する。

しかし、山場はその一歩手前で始まっている。たとえば、3アップしていて残りが4ホールのとき、優勢サイドはまだドーミーではないが、次のホールを勝ってしまえば試合終了だ。この重大局面に固有の名称がない。

試合の流れ、勢いといったものの極まりを表現できる一言のないのは、伝え手としてどうにももどかしい。それは、プレイオフ(延長戦)に突入して必ず勝敗を決しようという試合方式でいや増す。優勢でもドーミーにはなり得ないから、次のホールを取れば結着するという時点が最大の勝負どころ。「あと一つ」。栄光への最終幕に響く打鐘のような言葉が欲しいのだ。

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「ウーノ!」私は苦し紛れに叫ぶ。スペイン語で「1つ」の意味だ。ハーフでも結着する次段階にはリーチ、王手、チェックなどと言って、決定的瞬間への緊張感を高めようと試みるが、他ゲームからの借用はどこか悔しい。

劣勢サイドにとってドーミーの生まれない形式は土壇場でも起死回生、逆転勝利の可能性が残されている。そのホールを果敢に攻めて勝ちとるしかなくなった絶体絶命のプレイヤーを、ギズモと呼んでみる。映画の弱々しいキャラクターが、崖っぷちから盛り返し、凶暴なグレムリンに変身するのを期待するわけだが、これは戯れに過ぎるだろうか。

当事者だけの楽しみを超えたメディアスポーツ時代。ゴルフは沈黙に価値があるからこそ、逆に豊かな語彙が求められていると思う。興奮と感動のなかから、誰もが共感できる新たな言葉の生まれることを期待したい。

(2011年9月29日付毎日新聞夕刊掲載)

 

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