向こうずねの失敗

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シャンク(shank)は元来、すね(脛骨)を意味する英語だ。それだけで十分に痛い。

語源は、ブリテン島からケルト人を追っ払ったゲルマン人が使っていた言葉、シャンカ(sćeanca )だと聞くと、なんだかさらにしくしく痛む。

脚の膝からくるぶしまでの部分を指していた言葉が、やがて一般的に本体から突き出たまっすぐで細長い部分を指しても使われるようになり、軸とか茎、柄の意味にもなった。

表現の最大公約数が人間の身体であることは理解し易いが、ゴルファーにとってシャンクが最悪の打ち損じの名称になったのも、悲しいほど納得できる。

ゴルフでは、クラブヘッドがシャフトに接合されている部分でボールを打ってしまうことを指して使う。シャンクした球は右へすっ飛ぶ。

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このミスは恐ろしい。トッププロでも試合の大事な場面でしでかすことがあるし、好調なときに不意に出て、いったん出ると何度か続くことがあるので始末が悪い。

かのハリー・バードンも突如襲ってくるシャンクの悪癖に耐えかねて引退まで考えたというし、最近ではイアン・ポールターが3年前のマスターズで3発喰らって神経がささくれて、しばらくゴルフをやめるともコメントしていた。

下手の私にも容赦なく出る。あの手応えは、おぞましいとしか言いようがない。あたかも、意気揚々と階段を昇ろうとして踏み外し、向こう脛をしたたかぶつけるが如く、情けないことこの上ない。

ゴルフ古書をたどると、ミステリアスな災厄、恐ろしい疫病、口外無用などと短く記されているだけだったりする。辞書ではウェブスターズに1924年初出とあり、ゴルフ用語としてそれほど古いものではないようだが、ダメージのあまりの凄惨さに忌み嫌われ、書くことさえはばかられて来たのに違いない。

シャフト接合部には、もとよりスコットランド語由来のホーゼルや、ホーズ、ソケットという名称がある。「いまのはホーゼルだ」「ソケットしちゃった」と表現するのも一般的だが、結局のところ私はあまり言い換える気になれない。

シャンクの方が、いかにも悔しくて、紛らわしようのない痛みのアナロジーとともに、いまいましくも的確に感じられるからだろうか。

(2008年4月2日付毎日新聞夕刊掲載)

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プロの試合中のシャンクが初めて超スローモーションカメラに捉えられたのは2004年、ウィッスリングストレイツでの全米プロ選手権サードラウンド、17番パー3でのダレン・クラーク(北アイルランド)の一打だった。

 

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