傾斜と芝目と風を読み切って完璧なストロークをしても、入らないことがままある・・・元米航空宇宙局勤務の物理学者で、パッティングに関する研究に半生を費やし、近年、その成果をまとめたデイヴ・ペルツがそう言うのだから、あまり神経質にならない方がいい。
グリーン面は必ずしも一様でなく、生きている芝の状態はつねに変わる。ボールの挙動に及ぼす影響を予測し難い要素も、芝の葉に隠れた感知すらできない要素もあるからだ。
そこで、プラス43が目安になる。不確かな要素の影響を最小限に抑えるのはパットの力加減で、ペルツは実験の結果、ホールの向こう側の縁までの距離より約43cm長く転がるパットが、入る確率の最も高いことを明らかにしている。
もちろんこれは一般的に整備されたグリーンにおける平均値で、芝の種類や設定次第。90cmも行き過ぎる強めのパットが最適だった芝目のきついコースもあれば、全米オープン開催時の13cmもあった。
ところで、ペルツの観察では、4人で回る時の一ホールのパット数の合計は平均で9、グリーン上には一組あたり500強の足跡が残されるという。それらがとくに集中しがちなのはホールの15cm外側から180cmまでの範囲で、ランピー・ドーナッツと表現されている。
でこぼこドーナッツとでも訳せば親しみ易いが、そこにはスパイクマーク(靴底の突起による芝面の穴や損傷)やヒールプリント(靴の踵でつけられた跡)のように明白な痕跡も多く、直径43mm弱のボールにしてみればたいへんにゴツゴツとした荒れた区域になってしまうのである。
さらにおそろしいのはドーナッツの穴だ。ホールの周囲15cm以内の部分は踏まれず取り残されるようになるために、大げさに言えば堤防のごとくホールを囲むことになる。そこにできる段差がわずか1mmでも、ゴルフボールの身になってみれば甚大だ。単純換算で身長175cmの人間にとっての4cmの段差に相当するわけだから、ボールが躓いたり足止めされたりするのも妄想とは言いきれないかもしれない。
正月休みに太ってしまった怖がりの私には、球を拾い上げるためにホールに向かって足を踏み出すたびに、地面がズレてホールが少しずつ小さくなっていくようなイメージまで湧いてきて、震えた。
(2008年1月31日付毎日新聞夕刊掲載)
