全米オープンで試されるもの

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「精神力と身体的持久力の試練を克服し・・」

勝者への賛辞は決してありきたりに聞こえなかった。先週、サンフランシスコ市街にほど近いオリンピッククラブで開催された全米オープンはまさに消耗戦。Sガルシアが破壊したのは自分だっただろう。不本意なショットに逆上して罪もない集音マイクを打ち据える蛮行に及び、勝負半ばに脱落していった。Jフューリックはこつこつと積み重ねるようなパーセーブで首位を守り続けたのに、大詰めの一発の打ち損じで優勝を逃してしまったのは、神経をすり減らしたとしか言いようがない。

ケーシー・マーティンが出場していた。右足の先天的な血行障害のため18ホールを継続的に歩くことができないため、電動カートに乗りながらのプレーだ。スタンフォード大学時代にタイガー・ウッズのティームメイトだった彼は、痛みをこらえてゴルフを続け、いずれは切断しかないという診断を受ける中でプロ転向。1997年にPGAツアーに対してカートの使用を認めるよう訴訟を起こしてゴルフ界を二分する論議を呼んだ。

歩くことはゴルフの必須条件なのか否か。カート使用はスタミナ温存という点でアンフェアではないのか。ツアー側はゴルフの本質を変えることになるという理由を掲げて米連邦最高裁判所までもち込み、2001年にマーティン勝訴の判決が下された。

 

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彼はその後ツアープロ引退し、オレゴン大学ゴルフ部のコーチになった。今年の全米オープンは裁判の渦中に出場して23位タイに入った98年大会と同じコースであることから予選に挑み、1次、2次を勝ち抜いてキャリア2度目の出場権を得た。今回は惜しくも一打差で週末に残れなかったが、彼を見つめる私たちの感じ方は、14年を経て変わっただろうか。

彼の障害、挫けない態度、40歳で再び大舞台に上がってこられる才能。彼にその挑戦をさせ、それが実現可能であるゴルフの懐の深さ。そして、問題はつねに個別であり、ゴルフ自体は何も変わっていないことを、私たちはいまさらながら理解したのだろうか。彼の中に私たち自身を見つけたいと願いながら。

スポーツは勝つためにあるが、重要なのは勝敗ではないという矛盾した思いが強まっていく。

(2012年7月15日付毎日新聞夕刊掲載)

 

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