世界一過酷な自転車ロードレース、ツールドフランスを7連覇しながら、後になってドーピングが判明し、記録抹消、永久追放されたランス・アームストロング(43歳)が米ゴルフダイジェスト誌(2015年1月号)で次のように語った。
「ゴルフは、私がやってた頃の自転車競技とはカルチャーが違う。奥ゆかしい言い方をすればね。あっちは西部開拓時代。誰もドーピングがチーティング(いんちき)だなんて考えるやつはいなかった。軍拡競争と同じさ。相手より優位に立つためなら何でもあり。とにかくどんなことでもやる。そしてほかの奴のことなんて構ってられないし、最後は勝ち逃げだ。
「でも、ゴルフは違うと思うんだ。お前にそんなことを言われても・・・と思うかもしれないが、私はルールを守る。みんなが尊重しているゴルフの規範に喜んで従う。それは自転車競技にはなかったものだ。もし私がラフの中で自分の球を動かしたのを誰かに見られたりしたら、ただ悔やむだけじゃない、私は永遠に心を傷めたまま過ごすことになるだろう。自転車の世界を変えなければいけないと考えるとき、私はゴルフのことを思うんだ。」
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アームストロングはHC10、年間250ラウンドもするゴルファーだ。汚名にまみれて競技のキャリアを終えた彼が「ゴルフではチートできない」「精神的な土壌が違う」というのはどうしてだろう。自らのドーピングを「誤った意思決定」とは言ったが、反省や改心からではないのだ。最近の英BBCの番組では「今、あの時に戻ったとしてもまた同じことをするだろう」と言っていた。
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我々にはスポーツを競技力で垂直に並べる発想があり、最高レベルにはその種目の価値が最も洗練された形で実現されるのを期待する。しかしそこには本質的な楽しみとは無縁の殺伐とした勝利至上主義があり、ドーピングのような行き過ぎがある。アームストロングのやったことは許容されないが、競技者の本能たる激烈な闘争心の表れには違いない。その彼が別の価値をゴルフに発見したのだから、たいへん幸せなことではあるはずだ。認識を点検すべきなのはむしろ我々の方かもしれない。
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2000年7月23日、遅い夕方のセントアンドルーズで、ワインレッドのセーターを着たタイガー・ウッズが最初のグランドスラムを達成し、狭い実況席で私がゴルフの伝え手として生きる決意を確かめていたとき、パリでは黄色のジャージを身に着けたランス・アームストロングが拳を突き上げていた。私は彼の半生記を読み、癌を克服して1999年の復帰優勝を果たしたこと、周囲の人の愛情や命の有難さを知り「癌は私の人生に起こった最良のことだ」と言ったのを知った。生きる意味を追い詰めるように前人未踏の7連覇を遂げ、いま「ゴルフは違う」と言っているアームストロングの言葉は、彼と同じ病と闘うことになった私には強く響いている。大事なのは我々の週末のゴルフである、という思いとともに。
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(月刊ゴルフダイジェスト誌2015年7月号掲載)
*: タイガーの不倫スキャンダルでゴルフの幻想は消滅し、アームストロングの発見でゴルフの意味ははっきりした。我々ダファーに栄光あれ。ゴルフを楽しんで強く生きよう。