ウォーコルフ!:ゴルフをゴルフたらしめるものは何?

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「マスターズの開催されるオーガスタナショナルをテレビで見ていると、じつに美しい。私もコースに出られればと思うのですが、あいにく腰が悪い。クラブを振れないのです」

米イリノイ州シカゴの南西郊外にある人口1万8000人ほどの小さな村フランクフォートに住む72歳のディーノ・カパディアさんは、その夢をかなえるためにひとつの発明をした。身長ほどもある柄の長いY字状クラブだ。下端にはパターヘッド。上部の二股部分にゴムのスリングがついている。ドライバーとパターの機能の組み合わせだから「ドラター(Drutter)」と命名した。これ一本をもって彼はコースへ赴き、ゴルフボールを挟んでゴムの張力で飛ばして行って、グリーンまで来たらパターとして使う。Y字の一方にはレトリーバーが着いているので球を拾うときにかがむ必要はない。下端が地面に食い込むよう尖っている試作品もあり、こちらは飛距離を出せる。好みのパターを持ち運びし易いように一体化できる仕組みになっている。

「45度で引けば、一番飛びますね」

スリングの引き方で弾道と飛距離を変えられると言う元エンジニアのカパディアさん。いま、特許と商標の申請中だ。

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スイングが出来なくとも、ゴルフボールを飛ばし、パッティングを楽しむことができる。何よりも素晴らしいのは、四季折々に美しいゴルフコースを歩いて回ることだと考えた彼は、独自のルールも考案。ゲーム自体を「ウォーコルフ(Walkolf)」と名付けた。ハザードに入っても無罰で外から打てる。ホールからワンクラブレングスに止まれば、ホールに入ったと見なす。それより長い地点からホールアウトできた場合は「ウォーコルフ・バーディー」と呼び、マイナス1打。そこまでの所要打数から引いたものをそのホールのスコアとする。

カパディアさんは57歳でゴルフを始めたが、2年前、大ダフりした際に腰に来て、3日間起き上がれなかった。以後、プレイは諦めていたものの、コースを歩きたい気持ちは春を待たずとも募り、この発明に至ったというわけだ。

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いまR&AとUSGAが、パッティングの際にクラブの一部をからだにつけて支点とする打ち方は正統的でないから禁止しようという提案をしている。600年以上も連綿と続けられてきたこのゲームの伝統と慣習が次世代へ受け継がれて行くようにという、ゲームの守護者たる理念は理解できるし、ゴルフをゴルフたるものにしている要素とは何なのかを議論するのは大賛成だ。一方で、その魅力を共有したいと願う工夫が次々に生まれているのを見ると、正統的でないものをただ排除するのでなく、逆にそういうものをじゃんじゃん周縁に育んで行く方が健全ではないかと思える。分派も亜流も、なんちゃってゴルフも。カパディアさんの「ウォーコルフ」だって、大きな括りの「ゴルフ」でいいじゃないかと。

(2010年7月15日付毎日新聞夕刊掲載)

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