「ケン、このゲームによかれと思うことをしてくれれば、それがお礼になるよ」
教えてもらったお返しをどうすればいいかと尋ねたケン・ベンチュリに、故バイロン・ネルソンがそう答えたという。
ベンチュリ(81)は今年5月に世界ゴルフ殿堂入りする。米ツアーで14勝。1964年の全米オープンはいまも語り草だ。脱水症状にふらつきながら、塩をなめつつ、36ホールの最終日を戦い抜いて勝った。プロ12年目の1967年、手根管症候群で競技生活を断念。以降2002年まで、35年もの長きにわたってCBSテレビのトーナメント中継で解説者を務めた。
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正月早々、カリフォルニアのランチョミラージュにあるベンチュリの自宅に殿堂の展示係が訪れ、数々の記念品を梱包して行った。居合わせたスポーツイラストレイテッド誌のマイクル・バンバーガーが、その作業でのやりとりはおよそ以下の繰り返しだったと書いている。
「これはもって行っていいですか?」
「いいよ」
「初年度だけ?それとも永久に?」
「好きなようにしていい」
部屋を占めていた思い出の品々の消えて行く様子が、ベテラン記者のバンバーガーには少しショッキングだったらしい。殿堂入りが決まったときにベンチュリがこう言っていたのを私は思い出した。
「世の中は、そこから何を獲得したかということではなく、何を残したか、ということでキミを思い出すんだ」
米国のプロたちはベンチュリの中継を聞いて育ち、憧れと夢を育んだ。ゴルフシーズンの始まりを告げる春のマスターズもベンチュリだった。奇を衒うことはないが不意にパッションのひらめくような彼のコメンタリーが、自分の中で語られるゴルフの声であり季節であり続けるゴルフファンは多いことだろう。ベンチュリ自身が、すでにゴルフだったのだ。
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「ゴルフで得たものは、ゴルフに返せ」とは、ゴルフ界の常套句。私もアナウンサーとして、美談仕立てを試みることはある。でも白状すれば、具体的にどういうことなのかはわからない。聞こえのいい箴言には反射的に身構えてしまう天の邪鬼だからかもしれないが、少し辟易する気分もある。一人のゴルファーとして、ゴルフを、ただそれをすることだけで完結させたいと思っているからかもしれない。そうはいってもメシの種にさせてもらっているゴルフのために、私には何ができるだろうと考えていたら、ゴルフチャンネルの解説者、リポーターで、私の同僚と言えるドッティー・ペッパー(47)が、テレビの仕事をやめるという。
「このすばらしいゲームがもっと多くの人に楽しまれるのを見たい」
LPGA17勝、メジャー2勝。引退後9年間、メディアに身を置いていたペッパーはそう言った。米PGAでジュニアと女性のゴルフ参加を増やすためのプログラムの責任者になるという。ペッパーの転身は、1つの答えだろうか。
(2013年4月号月刊ゴルフダイジェスト誌掲載)