(10) シャンク・リデンプション

“シャンク(shank [ʃǽŋk])”は「すね(脛骨)」だ。それだけで十分に痛い。ブリテン島からケルト人を追っ払ったゲルマン人が使っていた言葉、“sćeanca(シャンカ)”が語源だと聞くと、なんだかさらにしくしく痛む。もともと、脚の膝から踝(くるぶし)までの部分を指していたそうだが、ゴルフでは、もとよりアイアンのクラブヘッドがシャフトに接合されている部分でボールを打ってしまうことを指して使う。階段を昇ろうとした時に踏み外して向こう脛をしたたかぶつけるが如く、情けないことこの上ない。

シャンクした球は右へ飛ぶ。ダブスドレッドで右はNGだ。1番こそ右隣は18番だからいいが、その後のホールでは隙間なく並ぶ瀟洒な家々の庭や車の行き交う一般道、はたまた高級プライベート・ハイスクールの校庭なんかに飛び込むことになる。今日は3番のティーショットで最初のシャンクに見舞われて肝を冷やした。狭いので多用する2番アイアンのティーショットが、赤やピンクのインパチェンスを植え込んでいるご婦人のいる庭へすっ飛んでいったからだ。そのあとは9番アイアンのハーフショットでやった。後半は克服したと思っていたのに、この16番、短い寄せでぶり返した。ウエッジで軽く上げて寄せようと思ったら、カチンとやって正対するバンカーに落として結局ダボになった。3発目。その都度2打ずつ余計に叩いたのでシャンクで6打の膨張だ。

(シャンク矯正ブレイス、なんてのはないのかな・・・)

シャンクがゴルフ用語の一つになったのは、それほど古い昔のことではないようだ。辞書ではウェブスターズ第9版ニュー・カレッジエイトに1924年初出とあるし、ゴルフ古書を見ても1931年まで遡ることができる程度。アイアンクラブのヘッドのシャフト接合部には、もとよりスコットランド語由来の“ホーゼル(hosel)”や、“ソケット(socket)”という名称があって、ウッドクラブの“ネック(neck)”にあたる部分の名称として19世紀から使われて来ている。シャンクと同じ意味で「いまのはホーゼルだ」「ソケットしちゃった」と表現するのも一般的だが、私はあまり使う気になれない。いまいましいが、「シャンク」の方がいかにも悔しくて、紛らわしようのない痛みのアナロジーが的確に感じられるからだろう。

人間の体は表現上の最大公約数的な尺度だから、“shank”はやがて一般的に本体から突き出たまっすぐで細長い部分を指しても使われるようになって、軸とか茎、柄の意味にもなったが、ゴルファーにとってのシャンクは、特に忌み嫌われるべきミスショットの名称だ。トッププロでも試合の大事な場面でしでかすことがあるし、好調なときにも不意に出ることもあるし、いったん出ると何度か続くことが多いので始末が悪い。

シャンクの末に16番をダボにした後、見上げた空は青かった。

(シャンク、シャンク、ショーシャンク・・・)

(あの映画は単なる地名だろうな。でも何か関係あるのかな・・・)

(ま、とにかく最後まで諦めちゃいけないってことで同じだけどな・・・)

ミスが何回か出ると、集中力が湧いてこなくなって、どうでもよくなってしまう傾向がある。ゴルフだけに限らず、躓いたり失敗すると思考停止して、適当に結論を見つけてそれ以上追求することをやめてしまう癖があるのも自覚している。ゴルフが精神的な持久力を試すゲームなら、私にいいスコアの出る可能性はない。

「はい、アイルランドの処方薬よ」

「サリー、リデンプションって何のこと?」

少し引き止めようと目論んで聞いてみた。

「何か悪いことしたの?」

「いや。きょうは大方のミスはやったけど、ディヴォットの穴は埋めたし、バンカーもならしたぜ」

「ゴルファーってたいへんね。最後はみんなここへ来て飲まなきゃいられなくなるわけ?」

「いつでもオレは懺悔をするよ」

サリーはその言い方を気に入ってくれたらしい。今回は少し同情してくれたような視線を残しながら、新しく来た客の方に行ってしまった。

(忙しくて結構だね。キミはゴルフをやらないらしいが、つねに距離感は抜群だ。)

コメントを残す