かつて、戸張捷さんが試合中継の中で「ツアー」という言葉を英語として正しい発音でお使いになるのを聞いて、私はこれで少しずつゴルフ英語も変わるかな、と期待しました。
英語をはじめ外国語には、日本語には無い音がたくさんあって、それでもその言葉を使いたいときには他の音で便宜的に置き換えて使うことになってしまうわけですが、日本語にないからと言って、努力しなくてもいいというわけではないと、私は感じていたからです。
英語を日本語化して使うことと、英語を日本語の中で使うことは、使い手の思い次第でしょうが、放送となると難しいところです。ツアーかトゥアーか、ルーチンかルーティーンか。日本語放送の中に英語が織り込まれたときに、日本語的に変換して話すべきなのか、英語は英語本来の発音に照らしてしゃべるのか。
ストレートなニュース番組のなかでは、現在の日本語の中で慣用される発音を採用することとなり、そうした各種のケースをリストアップすることは可能です。しかし、トーナメント中継のように長時間で、会話も多く、しゃべり手の個性の出やすい放送では、杓子定規な統一は必要ありません。日本語の中に定着した発音があろうとも、より原音に近い発音をすることは妨げられないと、私は思います。話し手のスタイルにもつながることであり、その言葉の性質や、その時々の文脈によっても変わるものでありましょう。
その選択は話し手の自由裁量でいいのでしょうが、言って見れば話し手のセンスが問われることになります。話を伝えたい相手に、伝えやすい言葉遣いを選ぶセンスと見識であり、私たちのコミュニケーションを巡る“いまの空気”に対する感覚にかかっている、ということになりましょう。ううっ。たいへんなこってすね。
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たとえば、グリーンの早さを知るためのスティンプメーターを「スティンプミーター」と言うなら、“Stimp-meter”のことであると知る人には、「この話し手は英語はできるだけ英語らしく言いたいのだな」という印象を与えることになりましょう。日本語で会話をする以上、どこかは妥協的なものであるとしても、ゴルフに関連する英語名称を、一貫して本来の発音に近いもので通すように努力するなら、そのコメンテーターの英語に関する信頼感を視聴者に与えることだろうとは思います。まあ。この例では「スチンプメーター」「スティンプミーター」は違和感があるな、というのが、現在の日本語の感覚ではないかと私は思いますが。
逆に言えば、もしも「スティンプミーター」と言う同じ人物が、「オーバードライブ」とか「カップイン」とか、日本語のなかの誤訳やカタカナ造語をなんの前置きもなく使ってしまったら、視聴者にそれらは英語として通用するという誤ったメッセージを送りかねません。私としては、視聴者の方々がそのコメンテーターの評価を下げるだけのことだろうと、半分は願っておりますが。
また、前置きが長くなりました。今回は省略が日本語の醍醐味であり、下品にならず、誤解を招かない範囲で使われるなら、生き生きとした会話や描写に欠かせない、ということが言いたいのであります。たとえば、「ワンペナ」は一打罰と言い換えることはできますが、軽快さが違いますよね。「ツーペナ」は「トゥーペナ」でも可能でしょうが、それはある文脈で笑いを取りたいという高等な意図がなければ成立しないでしょう。やはり、省略語であって英語としては通用しないということを、暗示できるかどうかという点を考えても、「ツーペナ」が基本ですね。
「ワンオン」「ツーオン」などは、一言で言い切って了解しあいたいというゴルファー同士の気持ちから出来上がって慣用されているのではないでしょうか。英語的にみてどうかなどという野暮なことより、ゴルフをする人たちの間でのみ通用する一種の符丁であると理解するべきなのです。これらの言葉も、放送では使い方次第であり、視聴者との間の共感の度合いにかかっていると言えましょう。