ゴルフ英語にオーバークック(overcooked)という表現がある。もとより煮過ぎ、焼き過ぎといった意味だが、ゴルフでは球の操作が行き過ぎたときの比喩表現だ。
たとえば、狙い所以上に球を飛ばしてしまったときや、少しフェイドやドローをかけようとしたつもりが、カットし過ぎたり大きくフックさせてしまったときに使う。
「包丁さばき」を連想させ、ゴルフの一打に「味」の世界のデリカシーが投影される、といったら大げさだろうが、飛ばし過ぎ、曲げ過ぎとストレートに言うよりも格段に奥行きが出る。
逆に加減が甘いときにはアンダークック。技術の足りない者が悔し紛れに使うのも愛嬌だが、いずれにしても結果に対する不本意がにじみ、一方でそのプレイヤーの技量への敬意も含ませて使える言葉だ。
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球がグリーン奥に飛んだときにはエアメール(airmail)という古典的表現もある。爽やかな語感のおかげでゴルフにミスはつきものと慰められた気にもなるが、手痛い失敗には時として軽快な比喩が救いだ。ただし、マンネリズムは避けた方がいいけれど。
ところで、同じ状況では「グリーンをオーバーした」という表現がよく聞かれる。ゴルフでは何事も英語で言いたいという気分がよくわかるが、問題はこの和英折衷文を省略しただけの「グリーンオーバー」という語のできあがってしまうことだ。
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英語として通用しないのに英語のように聞こえるこうした造語が成り立つのは、われわれ日本人にとって英語が、所詮、使わなくても生活していける言語だからだろう。どんなにいい加減に加工してもたいしたトラブルは生じない。
ゴルフの国際的な広がりを思えば、英語を台無しにするのはやはりマズイ気がするが、それ以上に難点がある。オーバークックには洒落があっても、「グリーンオーバー」には取り柄がない。同伴競技者への気配りも、次打への期待も、味も素っ気も。ただカタカナで格好を付けるだけでは、用語としての重みがないのだ。
ゴルフ用語に日本独自の体系はあってしかるべきだから、造語も日本的比喩もウエルカム。ただ、条件があるとすれば、簡潔で、気が利いていて、五感に訴え、記憶やインスピレーションが喚起され、原語の用法を大きく損なわないもの。われわれのゴルフがその言葉を得て、より生き生きと面白みを深める、そんな言葉たちであってほしい。
(2007年10月4日付毎日新聞夕刊掲載)
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<ゴルフ用語たる条件(小松,2006)>
1)簡略的で言い易いこと
2)言い得て妙であること
3)なにがしかのインスピレーションの得られること
4)歴史的事実を踏まえていること
5)下品でない方がよい
6)外国語採用時は用法も倣う方が望ましい