英語風カタカナゴルフ用語捏造に終止符を

「カップインしましたぁ!」と実況者が叫ぶのを聞くのはつらい。男女の「ゴールイン」同様、ゴルフの「ナイスイン」もめでたいことには違いないが、沈黙が善であるゴルフにおいて、その節目となる瞬間に発せられる言葉が英語風の捏造語だなんて、悲劇だ。

英語が、ゴルフの言葉遣いに入り込むのは歴史的事情から納得できる。軽快でスポーティーな感じを出すために、表現に英語を取り込むことを、否定するつもりもない。しかし、われわれは時として不勉強にすぎるのではないか。

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飛距離を比べて「オーバードライブされた」とやってしまう誤訳は、脈絡なく発生する。飛距離で凌駕することはアウトドライブだ。そそっかしい迷訳と笑って訂正できればいい。しかし、あろうことかゴルフ独自の慣用表現と扱われ始める例もあって始末が悪い。

グリーンに乗った時に「ナイスオン」、打つときに手の位置が球より目標側にあることを言いたい「ハンドファースト」、パー4のホールを名付けて「ミドルホール」、グリーンの傍らにあるバンカーを指して「ガードバンカー」など、造語、あるいは誤訳はたくさんある。

「シングルプレイヤー」は一人で回っているのか、はたまた独身者なのか。「ノータッチ」とはグリーンの速さと力加減についての鈍感をいうのか。もちろんこれらは揚げ足取りだが、違和感はつきまとう。

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英語を略して取り込んでしまうのは日本語の逞しさだとしても、たとえば追い風を「フォロー」と連呼していることを、義務教育から英語を学ぶわれわれはどう正当化できるだろうか。

われわれ全員が、どれも日本のゴルフ独特の符丁であって元の英語とは違うのだ、と了解しているのなら、日本語の一部として否定され得ないのかもしれない。

しかし、ゴルフをしない傍観者や外国人に嘲笑されるのは癪だ。知らずに海外で恥をかく者が出たら誰が責任を取るのか。慣用だからと開き直っては次代に禍根を残すことになる。

そう大げさに力説しても始まらないが、格好をつけるだけで妥当性にこだわらないでいると、本当に伝えたいことが伝わらなくなってしまうようでコワイ。英語は英語としてきちんと使えばいいだけのことだし、元を質せば日本語ではダメなのか、という問題なのだから。

(2007年9月6日付毎日新聞夕刊掲載)

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